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「本当に、もう、……」
「ん?そーだよ。もう入り込んじゃった」
「いや、うん。勝たないと、……」

そう自分に言い聞かせるように何度も唱えていた少年の顔を覗き込む。触れそうなほど近く寄ったその瞳は何処か冷たい。わずかにたじろいで一歩下がったその足を追うことなく、それはにこりと笑った。

「頑張って。私、頑張ってる人が好きよ。」

全くの本心だ、だがそれが受け取る人すべてに誠実を抱かせるとは限らない。ましてや、その本心自体が随分と不誠実だと人が思ったならば……。バーサーカーは苛立ちを隠せないようでその眉間のしわを一層深くした。

「そんな顔しないで。嘘じゃないもん。約束は守ってあげる。世界なんてちょちょっと……」
「なら、初めから何故そうしない?そんな力があるならどうにだって」
「出来るからしないんだよ?面白くないでしょ。私つまんないのが嫌いなの。これから先がぜーんぶ決まっててそれをなぞるだけとか本当に退屈でしょ?」
「だから、わざわざ」
「チャンスを上げただけじゃない。それとも何?文句あるの?」
「怪しすぎる」

声を上げて笑い出したそれに、相変わらず怪訝な表情を向けるバーサーカー。至極当然の反応だろう。それによって損害は起こりえても得られるものはその損害をかけるに等しくないようなものしかない。その言葉をそのまま信じてはこの少女はほぼ慈善事業のようにこれらを行っているということになるが、そんなことを信じられるような人望などこの少女にはなかった。

「だって人が頑張ってるの見ると、胸が熱くなって、ドキドキでとっても楽しいんだもん。もがき苦しみながら落ちていく様もまあ好きだけど。……ね、絶対楽しい戦いしてね!私の話よく聞こえるでしょ?」
「……もう一回確認するけど、本当に勝ったら」
「もちろん!なーんでも願いを叶えて上げる!マスターも、サーヴァントも。」
「そ、っか、……。」

後に引くことはできない、と、はしゃぐ少女の姿に圧力をかけられているように思った。少年はしばらくその言葉を反芻していて、少女の小さな言葉に出遅れてしまうのだ。

「でも」
「あ、」

小さな手が触ったその頬が熱くぬめる。悲鳴を飲み込んだように漏れた吐息に、バーサーカーの警戒も上がっていく。その手はそっと頬をなでてするりと風のように通り過ぎていった。

「つまんなかったら殺しちゃおっかな」
「お前、やっぱり……!」
「やだー、冗談だよ。そんなに怒らないでよ。じゃあ……本当に。頑張ってね。また来るから」

ふわりと赤い月に溶けた体を見届けた後その少年は闇に紛れ行動する一行を目にした。あれが自分たちを阻む敵、ある種の正義の執行者。もう二人には勝つか死ぬか、その二択しか残されていないように思わた。生きれど負ければ意味がないのだ、全てここに置き去りにするか、何もかもを乱して歩くほかは。道は一本を残して切り落とされた、戦いの火蓋と共に。

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