「ふー、集まった集まった!」
「こんなところにこんなに集めてさあ、っていうかどこだよココ。なあ」
「ここ?学校の寮だよ?」
「ンなことは分かってるんですけどねえ」
幼く高い声色が首を傾げた。シュミットは念願の新しい服を手に入れたところだったが、それが学生服というのもあり、なんだか気恥ずかしそうにそわそわとしていた。学校から寮が離れているということもあり比較的静かで落ち着きのある佇まいであった。木造で、少しばかりレトロな雰囲気を漂わせていた。男女で棟が別れており、談話室なども備え付けられて生活には困らなそうだった。
「他のは良いとして、私みたいな白髪頭が混ざったら浮いてしまわない?」
「すでにいるでしょ?ほら!シュミットが!」
「彼は若いでしょ」
「あなたもとっても若く見えるわ!」
「そんなものかな?」
桐葉清白は何処かひょうひょうと首を傾げた。最年長の彼は学生服ではなく私服のままであった。制服を着るというよりは赤い服の方がある年だ、それでもここに押し込んで魔術で目くらましをして過ごしている。ルーラーはすっかりここの生活に馴染んでいる様子だった。
「今度お茶会もするんだけど、スズちゃん何飲みたい?」
「スズちゃんって………。そうだね、私はお茶がいいな」
「お茶?お茶会だからね!分かった!」
穏やかな話をしている癖、このすべての元凶はこのルーラーだ。そもそも裁定者というのは誰にも味方しないという存在であるはずなのだが、彼女はすべてを引き起こしている。それもほぼ、自分勝手な娯楽的発想で、だ。
この学校に馴染み、楽しそうに毎日を過ごしている彼女にシュミットは振り回されてばかりだった。初めて会った日に貴方に決めたといわれたその瞬間から、まるで所有物のように容赦なく好き勝手使われていた。あちこちにスカウトにいかされ、やれあの人がいいだのこの人に令呪がだの言われては本人に声をかけに行くのは毎回シュミットに押し付けていたのだ。
「ねえシュミット!」
「ああ、いやな予感がする……」
「お茶会の準備しよ!」
「そのくらいならまあ……」
「だから部屋!三個くらいぶち抜いて!」
「ふっざけんなおい!」
毎度毎度こうした無茶ぶりを振られるのが決まりだった。出来るわけもないことを振られてはまるで人間のモニタリングをするような瞳で見下ろされているのだ。そんなことがもう半年、そろそろ慣れてきている自分にため息をついた。
「楽しみだね、楽しみだね!どうなるかなあ」
「そんなにお茶会が楽しみかよ……」
弾む声色、浮いた足取り。彼女の見ている場所はここではないどこかのようで。すれ違った言葉のまま廊下を進む一つの足音がただ遠くなっていった。