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夜も更けたクロシスの廊下にこつこつと足音が響いた。本来であれば誰一人起きていないような時間だが、レクリエーションルームからは光が漏れ、微かに話し声が聞こえた。

「お待たせ」
「なんでこんな深夜なんです、所長?うちもう眠いわぁ」
「むしろちょっと寝てたわ、おはよ……」
「ずいぶんな夜中ですよ?」
「お前はいつも人を待たせるよな?」
「して、所長。このような時間に呼び出すにはそれなりの理由があるのでしょう。」

ドアを開けた向こう側には所長が集めた、いわゆる適正のある魔術師たちが一堂に会していた。もともとクロシスで働いていた所員もいればわざわざスカウトした人物、脅してまで手に入れた人材迄存在していた。それをぐるりと眺めて、背後からの足音に振りむいた

「遅れたー!!!悪い!」
「うん、これで全員だね。こんな深夜に申し訳なかったね、志崎くんは終わるまで帰しません。……で、集まってもらった理由だけど」
「端的に話してくださいね。終わったらうちはもう練るわ、明日非番やけん……」
「サーヴァントの召喚、みんなでするんですか?」

永森がそう聞くと所長はその笑みを深めて指を鳴らすとレクリエーションルームの床に陣が光浮かび上がる。志崎は眉をひそめてなんとなく足をずらした。

「君たちにはこれからサーヴァントと共に結目の中に乗り込んで解決してもらう。そのためにこちらは出来る限りサポートするから、どうか頑張ってほしい。未来の為、と言ったらあまりに綺麗すぎるけれどね。……。さて。最後に来た善々男くんはこれね」
「しゃんしゃんなん?……ゼンゼンマンだって、所長!」
「はいはい。じゃあこれ」
「これがサーヴァント召喚の為の……」
「よいしょ。」

真ん中に置かれたのは黄金の杯、聖杯の形をしたものだった。しばらくそれを眺めていた永森はぽつりと所長に尋ねる

「これ、本物?」
「偽物。……っていうと違うな、正確には召喚という出力しかできないもの」
「ど、どういうことですか!?」
「これはキャスターが作り出したものだよ。……そもそもサーヴァントというのは過去の再現、その影をこちらに引っ張ってくるために必要なものは電力だろうが魔力だろうが必要な熱量だけあればいいと気付いたんだよ。で、いままでその検証をしていた。キャスターにはちょっと嫌われたけど」
「それって……。成功したんですか?」
「98%成功するよ!」
「ねえ」
「ん?」
「それ、成功してないじゃないですか!!!!失敗したらどーーーーするんですかあ!?」
「深夜なのに元気ね。でも人生に絶対なんてないでしょう?僕たちはやらなきゃならない。ここまで来るのに50年くらいかかってるんだ」
「う………」

各々が自分の手に回ったそれ、もしくは偽物らしい聖杯に目をやった。しばし気まずい空気が流れたが、それを破ったのはリートだった。

「……もうこれしか方法はないんだな、近衞」
「そうだね、君たちには協力してもらうほかない」
「拒否をしたら、どうなりますか」
「そりゃあね志崎くん、前も話した気がするけど。君が頑張った結果の未来だって変わってしまうかもしれない。君の作った未来が変わらなかったとしても、その先が変わっていくかもしれない。それに君には深く関係があると思う、……って、話はしたか。みんなもそうだ、この施設を僕が作ったのは、抗えぬ過去からの反逆に対して防衛を持たない未来を守るため。君の非番や、君の探し物、置かれた状況は現在の自分が努力し変えるものだ。過去を変えて何とかするものじゃない。過去は動いてはならない。……時は水だ、止まれば腐る。君たちの未来を守るため、誰かの未来を守るため。……あー、しゃべって疲れた!さ、やって」

ふわりと風が舞った、その空間に満ちていく。陣の真ん中に置かれた聖杯はその光る線に吸われるように溶けて消えて、輝きが増した部屋の窓は発せられる魔力の渦に震え、ガタガタと震え始めた。窓と戸をすべて開けても軋む空間がこすれて光を放った。だんだんとその光は形になり、肉になって、この世界に再現された。

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